#01 [SR/Yuria Onishi 大西優里亜]

「作品は育っていくものだと思っているので」
そう話すのは先月に単独公演を終えたばかりの大西優里亜さん。
2024年にSR/Yuria Onishiというアートプロジェクトを立ち上げ「エンタメとアートの融和」という理念を掲げて始めた活動は、1年半という歳月の中で、飛躍的にその影響力を伸ばしています。
公演で挑戦したことや来年度から新たにプロジェクトメンバーという制度を取り入れ、地方公演やレジデンス活動も控えている今後の活動への展望を語っていただきます。
演者と観客、舞台と日常、そして過去と現在の境界が極めて曖昧な実験作はどうやって作られたのか。
彼女にとって振付とはなんなのか。
これまでのダンス活動で辛い思いをしてきた大西さんだからこそ感じる視点や課題を語る言葉に、強いこだわりを感じました。
「Audience-セルフ・オブザベーションとしてのパフォーマンス-」について
作品で挑戦したことを教えてください

観客が主体の作品
まずタイトルでも掲げているんですけど「お客さんが主役の作品を作りたい」という考えが根本にありました。ホールのような劇場では、役者やダンサーのことを客席から見るという一方的な構図が基本ですが、その視点をいろいろな方向に向けたいという思いが強かったです。
はじめに「お客さんが演者になる」という選択肢がありましたが、現実的ではありませんでした。最近耳にするイマーシブシアター1では、お客さんに対して「あなたも作品の一部として動きますよ」という前提がありますが、客席と舞台を分ける形式へのこだわりもあったので、厳しかったです。次に「お客さんが演者になる」のではなく「演者がお客さんになる」ことに挑戦しました。しかしこれもお客さんになる想定で稽古を進めていたところ、ダンスである必要性が見当たらなくなってしまい、ボツになってしまいました。
振付を減らすことで、観客の視点を持ち、自己鑑賞をする
最終的にテーマとして決まったのは「演者が観客の視点を通して自分たちの作品を鑑賞する」ことです。これを本作では”セルフ・オブザベーション(自己鑑賞)”という言い方をしています。即興的に動きが生まれる理由やその場に立つ意義を考えるので、自分について考え直す機会になります。
だから振付をとても少なくしました。振付を練習すると「自分が動いた動機」よりも「私(大西)の振付をどう上手く踊るか」という思考になってしまうので、自分の動きを客観的に鑑賞しながら場を作るという、即興性を大切にしています。また見られる対象としてではなく、自分自身も観客を見ている状態を作ることで、観客ごとの反応の違いを肌で感じました。
稽古姿を舞台上へ
本番中の完成された身体ではなく、稽古の時のリラックスした身体に興味があるので、今回は稽古風景の身体にスポットを当てました。鏡を舞台上に配置したり、過去の稽古映像を投影することで、稽古の際に無意識に行なっている「自己鑑賞」の姿勢が立ち上がるような気がしました。稽古では、鏡を見たり映像を撮影して、自分の動きを修正しようというダンス特有の作業があるので、その構造を舞台上に再現することで、メタ的な表現としても成立させたい狙いもあったと思います。
アートとエンタメを構造から考える
SR/Yuria Onishiでは「アートとエンタメの融和」を理念として掲げていますが、本作では構造をエンタメにするということが1つの鍵になっています。作品の骨格となる「シーン」の意味を誰もがわかるような楽しいものにすることで、即興ではあるのに、再現性を保つという試みをしました。
たとえば作中に鬼ごっこを行うシーンがあり「タッチされると状況が変化する」という決まりがわかりやすいので、動きに一貫性が生まれます。その動きにさらに身体的なルールを増やすことで、パフォーマンスとしてのシーンが完成する。誰もがわかるシンプルなルールに対して少し複雑な動きを盛り込むことで、本作品の強度が上がっているんだと思います。
他にも稽古映像と一緒に踊るシーンがあったのですが、過去の自分たちと同じ振付を揃えて踊るという構造を作りました。3人で踊っているのにまるで6人で踊っているような見え方をするので、見ていて純粋に楽しい時間だと思います。一方で、途中で映像をストップさせたり、構成を複雑にすることで、観客に「驚き」を提供できると考えました。それも演者は即興的にストップしたりアレンジするため、楽しませる意識よりもその瞬間に集中する意思の比率が高くなると思います。
演者が作品の世界に入り込んで観客の視線を一度遠ざけるという状況は、楽しませることを前提としたエンタメ性とは異なり、アートとしての1つの終着点であり、本作のアート性を象徴的に示していました。その演者の緊迫した様子を観客は体験するように一緒に鑑賞する。それは「見て楽しむ」エンタメの構造から外れ、演者だけでなく観客にとってもアート作品を鑑賞している感覚を引き起こしていたと感じます。
だからこそ「鬼ごっこ」や「稽古映像」の構造は、見ているとシンプルで楽しいにも関わらず、内容や演者のアート的身体の影響で、鑑賞においてバグが起こります。その状況は鑑賞体験として新たな感覚を引き起こすのではないかと考えながら、本番まで詰めましたね。
公演期間やクリエーション中、なにを感じていましたか?

とにかく不安でした。観客の存在を中心に作っていたので、実際にお客さんがいないとどう変容するのか予測できないのが要因ですね。ただその不安は、作品に対して問いを持っていた足跡でもあるので、自分にとっては良い不安だったと感じているし、最後まで妥協せずにアップデートできた理由だと捉えています。完成されたものをお見せするのではなく、あえて未完成のものをお客さんと一緒に完成できたので、ライブで上演する意義を感じることができました。
他には本番1週間前にSTスポットさんのご協力もあり、公開通し稽古を行ったのですが「人に見てもらう」ということを本番前に体験できたのは、作品にとって良い舵を切れたきっかけだったように思います。
劇場に入ってから変化はありましたか?

会場の構造を作品にかなり反映させていたので、変化を楽しむつもりでいました。その場でしかできないことを追求したかったので、実際に本番期間も稽古して、いいねってなったものを採用していました。
まずは映像が作品にとって大きな変化を与えてくれました。投影された時の迫力やカメラの切り替えスイッチの流暢さは、作品における間(ま)や緩急を意識する上で重要な要素だったと、実際の映像を見てから強く感じました。映像を使うことは、身体より映像の印象が強くなってしまうので、コンテンポラリーダンスにおいての使用が難しいんですけど、今回はポジティブな意見が多くて安心しました。特にメンバーの丹波の仕事の関係で、カメラマンの方々にたくさんお越しいただいたんですけど、みなさま映像の表現に興味を持ってくださったようで、映像の可能性を感じた瞬間です。
他には会場全体を作品化したいという構想があったので、会場に入ってから実験をしました。「作品」という概念を考え直したい思いがあり、公演を知る段階(チラシを見る)から鑑賞後、帰ってきてパンフレットを片付ける、までを「作品における上演」と定義していました。そのためスタッフさんのブースや楽屋、受付、客席などを本来の役割として完結させるのではなく、それすらも作品の一部にしたかったし、作品の始まりと終わりも境界が曖昧な状況をつくりました。稽古期間ではイメージできなかったものなので、会場入りしてから変化した大きな要素の一つですね。
本番までの道のり
会場の決め手はありますか?

客席が固定された劇場空間は避けました。プロセニアム形式2の劇場は、お客さんが安心して鑑賞できる環境が整っているので、お客さんとの距離が近く油断できない空間を想定した場合、客席を自由に組めるギャラリーという選択肢しかありませんでした。
すみだパークギャラリーささやさんは、以前観客として演劇作品を鑑賞した際に空間がとても印象的だったので、即決でした。ただこのテーマは、劇場空間でやることにも大きな意味があるので再演で挑戦したいです。
音楽は作品にどんな影響を与えましたか?

作品の内容や雰囲気を順守しすぎないようにしました。実は曲の構想が定まっていない頃、稽古中に全く関係ない隣の団体の部屋からHIPHOPの曲が流れてきて、その状況がカオスだったのが強く印象に残ってます。シーンの内容と音楽の関係性にむず痒さが欲しかったので、シーンに合わせるのではなく、違和感があるような音楽を作っていただきました。
他にはアンビエント調の現代音楽を別の方に作曲してもらいました。構造としてのわかりやすさを重視していたので、しっかり踊るシーンを作りたくて、コンテンポラリーダンス×現代音楽というマッチしやすい曲調で依頼しました。その曲の鳴り始めが、ダンサーが誰も舞台上にいないシーンだったんですけど「音楽だけをじっくり聴く時間として心地よかった」という意見があって、作品にとって大きな役割を果たしていたように感じます。
クリエーションで感じたことはなんですか?

ゲスト(福永将也さん)の存在です。今回出演者は、SR/Yuria Onishiのメンバーの3人とゲストの福永将也さんの4人でした。全員が創作経験がある点で、理想的と感じていた一方、福永さんはとても大きな存在でした。
福永さんは、振付家・ダンサーとして活動している方で、クリエーション中も作家としての視点から意見を言ってくれることが多かったです。それ自体はとても嬉しくて、参考にさせていただいた意見もあります。元々福永さんにオファーした理由が、彼のダンサーとしてのスキルや存在に惹かれたというより、本人の考え方に興味を持ったからなので、彼からの意見はプロジェクトにとってよい影響でした。ただダンサーとして出演してもらうことが前提だったので、ダンサーと作家の考え方をどちらも捨ててほしくないという希望もあり、そこが最大の肝だったと感じます。作家としての確立したアイデアと、ダンサーとしての柔軟な捉え方を兼ね備えるというのは難しいと思うので、福永さんと私(大西)の作家同士の探り合いっていうのが稽古の1番のトピックだったかと。
振付家として
作品を作るうえで大事にしていることってなんですか?

「増える」ではなく「変わる」興味への観察
作品を作る上で、作家としての確固たる核は必要だと思うので、その作家性の核を育てていくことが、自分にとっての課題だと考えています。けどその反面、核を固定させるのは自分にとってまだ早いと感じます。というのも、まだプロジェクト自体結成してから1年半という短い期間の中で「私(大西)の作品は、こういう目的のために取り組んでいます」と社会に提示することは、自分の可能性を自分で閉じ込めてしまう恐れもあり、いろんな視点を常に持っていたいと日頃から考えていますね。
そんな中で最近感じるのは、興味の視点が「増える」というよりは「変わる」ことに気付きました。経験とともに好きなことは、少なからず増えていくと予想していたのですが、自分の興味関心は常に変化していって、現在の自分が過去の作品を見ても、同じ人間が作ったとは思えないことがあります。今、過去と同じテーマで創作したら全く別物になるはずで、その感覚が楽しいなって。
過去の自分を疑い、その状況を楽しむ
それで興味が「変わる」ってことは、核の部分は固定化されないし、してはいけないと思いました。自分はまだいろんなものを見て遊ぶ時期なんだと悟りました。
だから今大切にしているのは「過去の自分に疑問を持つ」ことです。過去の自分と対比して、今の自分はなにができるのかということを大切にするイメージです。今回の作品でも1つのシーンを完成するために過去に自分は別の手段を取っていたかもしれない、と予想したり、似たようなアイデアを思いついたとしたら、興味の対象が変わっていないのだと再確認する作業が楽しいんですよね。
振付に対するこだわりを教えてください

私にとって振付は「リズム」です。
私は振付の際、動きの軌道やカウントではなく「リズム」を渡します。ダンダダン、ドンドドンみたいな。どういうこと、と思われるかもしれませんが、自分の中では明確に正解があります。リズムにも強弱があり、そこから動きの大小や緩急が自然と見えてくるので、そういうビジュアルとしての緩急から振付を作ります。その人らしさが消えてしまう可能性もあるので、ニュアンスや軌道はできるだけプロデュースしないようにしているかもしれません。
プロジェクトについて
プロジェクトの概要やこだわりを教えてください

エンタメとアートの融和を目指す
シアタージャズダンスを小さい頃からやっていて、大学生の頃にコンテンポラリーダンスに出会ったのですが、2つのダンスの違いを考えるようになりました。大学生の頃から作品は作っていたのですが、卒業してから本格的にエンタメとアートの狭間を研究するために、プロジェクトを立ち上げました。アートの「考えることでコンテンツを楽しむ姿勢」と「見て楽しむ」エンタメを融和させることで、新たな鑑賞体験ができる作品を仲間と一緒に考え、発表していきたいです。
海のように広く、部屋のように狭く
SRの名前の由来は、Sea(海)とRoom(部屋)という単語の頭文字を取っています。「海のように広く、部屋のように狭く」という、どんな空間でも変容できるようなプロジェクトにするために命名しました。再演において会場がどんな環境でも同じ作品を上演できるような団体を目指しています。大きな柱が中央にあっても、大きなクマがいたとしても、作品の一部にしたいですね。
Sea sideとRoom sideという作品スタイル
SR/Yuria Onishiでは、Sea sideとRoom sideという2種類の作品スタイルを確立しています。
Sea sideは、身体における表現の可能性に着目しており、稽古中はアップなどで身体感覚の共有のワークを大事に進めていますね。基礎的なトレーニングももちろんですが、作品においては、動きをどこまで揃えるかなどの決めごとを細かく定める作業が多いです。
反対にRoom sideは、身体よりも演者の意識に焦点を当てています。演者の存在意義やシーンの意図が作品としてどう見えるかをみんなで探ることがメインです。今回の作品はRoom sideだったんですけど、その傾向として会話が多くなります。稽古でも「どんな気持ちで今踊っていますか」みたいな話をたくさんしました。
コミュニケーション【創作環境への意識】
Room sideで会話が多くなるという話をしたんですけど、Sea sideでもコミュニケーションは大切にしています。ダンスだから言葉はいらないという考え方もあると思うんですけど、私の場合は「言葉」でないとわからないこともあるんですよね。
というのも自分がダンサーだった時に、良い経験や辛い体験があるんですけど、それらに共通するのがコミュニケーションの量や質だったんです。最近ハラスメントって言葉も増えていると思うんですけど、結局コミュニケーション不足で生まれてしまうものだと思っています。ハラスメントについて深く学んだ時期があったんですけど、個の人間性というより、集団の作る雰囲気や環境が原因であることがほとんどです。だからこそできることはたくさんあると思っています。
振付家だけではなく、演者や制作、主催やテクニカルスタッフ、劇場関係者などいろんな方向性から言葉を投げかけることで、良好な関係性が成立すると信じています。
このプロジェクトはまだ大規模ではないけど、今のうちからどんな立場の人にも言葉を投げかけて正面からリアクションを受ける、言葉をしっかり聞くことを大切にしていきたいです。ダンスの現場に限らず、クリエイティブな現場では起こりやすいことなので、その辺りは今後も敏感に考えていきたいですね。
プロジェクトの核となるものはなんですか?

仲間との共同制作
個人の創作においては、核を定めないということを核にしていましたが、プロジェクトにおいては方針を定めてそれに基づいた活動をしていきたいです。
一緒に活動してくれてる2人(丹波と青柳)は、私と同じくらい一緒に作品やプロジェクトについて考えてくれているので、私(大西)が主宰ではあるんですけど、2人もメンバーというより仲間のような感覚です。だからプロジェクトの方向性を決める時も、まずは2人に相談して、チームとして大きくしていきたいという願いがあります。
再演を通して作品を育てる
プロジェクトとしての揺るがない核といえば、再演への固執です。
これまでプロジェクトとして3作品作ったんですけど、新作を除いた2作品はこれまで計5回の上演歴があります。個人でも、発表してきた半分以上の作品が再演歴があるほか、2026年6月発表予定の新作もすでに再演が決まっています。昔から1つのものを派生させたいという再演への欲求はありましたが、実際に再演の可能性を実感できたのは、最近でした。
2025年に上演した「律動」という、プロジェクト2つ目となる作品で、3回目の再演の際、豊岡演劇祭というフェスティバルに参加したんですけど、その際に「ああ、これが自分が求めてる形だ」と思いました。また再演したいですし、可能性はまだまだあると思いますが、再演することでこんなにも「意識や作品が変容できる」事実に感動しました。
そこで考えたのが「新しいものは生み出そうと思って生み出すのではなく、生まれてくるもの」だと。突発的に発生するのではなく、要素が絡み合って化学反応を起こすことで、出来上がるんじゃないかって考えました。
今回の作品も再演の余地がとても残されているので、ワクワクしています。私は作品は育っていくものだと思っているので。発表することや上演するまでの過程が大事ですが、それだけが「作品」ではありません。上演に対して、お客さんからいただくフィードバックや反応次第で、その「作品に対する期待」みたいなものを考えられるんですよね。そこまで寄り添うことが1つの作品でありたいと思います。だからこそコミュニケーションとして期待に応えるためにも「続きはもちろんやりますよ」という気持ちになります。
つまりプロジェクトとしてのブレない核は「再演」ということですね。これからも再演を繰り返すことで、SR/Yuria Onishiとしての核を作っていきたいと思います。
- 2000年代にロンドンで始まった体験型演劇の総称。その後ニューヨークを中心に注目を集めており、没入できる新感覚なスタイルが特徴的。 ↩︎
- 舞台を額縁のように切り取った構造物という意味で、客席と舞台が完全に分断された状態を指します。 ↩︎
プロフィール
SR/Yuria Onishi主宰 大西優里亜(振付家・ダンサー)

2000年生まれ。日本大学芸術学部演劇学科卒業。アートプロジェクト「SR/Yuria Onishi」を主宰し、全国舞踊コンクール創作舞踊部門1位や選抜新人舞踊公演での新人賞など、数々の賞を受賞している。観客と演者の境目をなくす空間演出や、再演を通じた創作を重視するのが特徴。2025年から「Dance for Piece Project」を発足し、学生へのWSや創作支援を通じたコミュニティ作りにも尽力している。
今後の予定:2026年6月 SR/Yuria Onishi 新作ダブルビル公演「LIVE」(津あけぼの座)
SNS:https://www.instagram.com/yuria_glily?igsh=NjV6cWpnZG82Mmh4
